パソコンインストラクターとして働き始めてから2018年で20年弱になりました。パソコンインストラクターにも働く場所によって役割が違うなと、いろいろな場面で仕事をさせていただくことで考えられるようになりました。
パソコンインストラクターになりたい、そう思っていらっしゃる方にお伝えしたいことを書いてみようと思います。
パソコンインストラクターに求められているものが変わったなと思う点
パソコンインストラクターといえば、20年ほど前なら引く手あまた。パソコンインストラクターとして働きたい人より働き口のほうが多い、そんな時代でした。
会社にパソコンが導入されたころ。仕事で使うソフトの使い方指導がメインだった時代。
わたしがパソコンインストラクターとして仕事をするようになったのはちょうどこの頃。パソコンインストラクターとして指導する場も会社がほとんど。新しく導入されたパソコンの操作を教えてほしいと会社側から依頼があって、という仕事がほとんどでした。
国の施策。IT講習会・パソコン講習会が行政主体で行われるようになった頃。
それからしばらくすると、国が掲げた事業の中にIT活用を促進するものが含まれたことで市町村単位でIT講習会・パソコン講習会が開かれるようになりました。
その頃は家庭にパソコンが1台あるかないかの時代。通信網だってブロードバンドになろうとしている頃。家庭でパソコンやインターネットを使う前提の講習でした。
行政が関わることでそれを受講する費用は格安・もしくは無料でしたので、多くの市民が受講しました。
今まで会社向けの講習しかしてこなかったのに、家庭向けの講習となるとカリキュラムはそれに合わせて作り替える必要がありました。初めのうちは市販のテキストを採用していましたが、ニーズの多様化に対応するために講師が自ら講習を組み立て、テキストを自作するようになりました。
そして今。「一から教える」より「分からないことだけを教えてほしい」になった
そして今。家庭にはパソコン1台あるかないか、というのは変わらなくても、スマホやタブレットが登場し、インターネットに接続できる端末が増えました。正直なことを書けば、パソコンなくてもスマホやタブレットがあればインターネットに接続できるし、パソコンは高価だから、と購入しない人も増えてきています。
そんな時代ですから、パソコンインストラクターの需要は少なくなりました。働ける場所もなくなったというのが実情です。どちらかといえば、「教える」という需要よりも「聞かれたことに答える」という需要のほうが多くなったと思います。
わたしのところにもパソコンインストラクターをしていたのなら、とヘルプデスクで働かないかというお誘いが来ることがあります。教えてほしい人は今もいますが、「分からないことだけを教えてほしい」という人のほうが圧倒的に多い。一から操作を習いたいという人は少なくなったと思います。
これから、パソコン操作を教えるインストラクターに求められる力とは
昔であれば、WordやExcelといった主要ソフトがある程度使えて、インターネットを使って検索ができたりメールのやり取りができれば、十分にインストラクターとしての知識は足りていたように思います。
ですが、今はあらゆるソフトやサービスを合わせ使うような、昔が基本知識であれば今は応用知識、たくさんの使用経験と場数を踏んでいないとインストラクターとしては仕事にならないなと。
受講者の知る権利を邪魔しない。危険を排除するのではなく危険と判断できる力を養う
たとえば、こんな人がいました。
生徒さんがSNSに大変興味を持っていました。それを授業に取り入れてほしいとお願いされたとき、その人は「そんな危ないものは使わなくてもいい」と一蹴した。
確かにSNSには危険な部分はあります。ですが、何が危険で危険じゃないのかという判断ができる材料を提供するのがインストラクターの役割です。
「簡単」「楽」は相手が決めること。自分の思い込みを押し付けない
こんな人もいました。
確かパソコン操作を始めたばかりのクラスでの出来事。まだマウス操作もおぼつかない、恐々触っている人に対していきなり右クリックを教え「このほうが簡単」と言った。
誰が簡単だと決めるのでしょう。それは受講者です。教える側ではありません。ましてや簡単というのは手数が少ないという意味ではありません。悩まず迷わずその操作を容易にすることができる、その状態を簡単というのではないでしょうか。
たくさん「知っている」ことが価値ではない。適切なものを選択・提供できる
他のところではひとつの操作結果に行きつくための操作方法を5つも同時に話してしまい(受講者は初心者クラスです)、生徒さんが大混乱したところに呼び戻されたこともあった。
パソコン操作には目的はひとつでもいくつも操作方法があります。教える側としてそれらを知っていること、使えることは重要なことかもしれません。ですが、受講者側がそれを求めていない、確実な方法をひとつだけ教えてほしいと思っているかもしれない。
たくさん知っていることは「凄い」ことではありません。教える側としてたくさん知っているのは当たり前です。
わたしはよく後輩にこう伝えてきました。「インストラクターというのは一(いち)話そうとするなら十(じゅう)の準備をしておかなければならない。でも話すのは一(いち)。」と。
教えるとは詰め込んだ知識を披露することではありません。相手に伝わる形にするために何度も何度も咀嚼する。準備したものをすべて披露することではなく、ひとつのことを伝えるために準備しただけ。それは無駄なことではないし、損なことでもない。
たったひとつ、それだけを伝えること。それがインストラクターの役割だと、教える仕事をしている者の役割なんだと思います。
足を運んでくれる意味を考える。その価値を作り出す努力を惜しまない
まず、今の時代、パソコンを操作しているときなどに困ったことがあったらネット検索する人のほうが多くありませんか。分からないことがあったとしてもネットで調べれば分かる、そんな時代です。
なのに、なぜわざわざパソコン操作を習いたいと足を運ぶ人がいるのでしょうか。
それは分からないことや困ったことがあってもどう検索していいかが分からないから、ということもあるかもしれません。ですが、それ以外にも理由があるとわたしは現場にいて思います。
10名前後の人が集まる教室で講習をしていると思うのが、人と人との出会い、つながりを求めているところがあるように思います。学びたいという気持ちはないわけではないけれど、決まった日に決まった時間に習いに行く、それに価値を見出してくれている。
反対に、マンツーマンの場合。「自分に合った方法」を見つけたいからお金を払ってまでその時間を持つ。餅は餅屋じゃないですが、専門的知識を持つ人に自分に合った方法を教えてもらいたい、そのほうが有益だと感じてもらえている。
高度な操作が必要ではない。自分に合った方法を知りたい。仲間と一緒に「勉強」したい。そんなふうに考える人が多くなったような、現場にいるとそう感じます。
相手の求めるものをくみ取って適切な知識や経験を提供できる
求められるもの、ニーズの多様化という言葉がありますが、昔からあった仕事に使う操作技術を知って効率的な仕事がしたいのもあるし、楽しくパソコン使っていろんなことがしたいというのもある。やりたいことをやるために専門的に教えてほしいというのもある。
「パソコン操作を教える」ことを仕事にするなら、多様化したニーズの中のどの部分、楽しくパソコンの使い方を教えるのか、専門知識を使って困っている人を助けるのか。前者は生涯学習のような感覚か。それとも専門性を高めていくか。どちらかしかないような気もします。
パソコン教室でインストラクターとして働きたい人に
パソコン教室というのも減りましたしね、働く場所、雇用されるという点では安定するかもしれませんが、求人が少ないのも事実。もしパソコン教室のインストラクターになろうと思っているなら、こういうことに気を付けてほしいということもまとめてみますね。
マニュアルやカリキュラム、テキストを無視しての我流は禁物!
パソコン教室にはマニュアルがあります。教え方もそうですが、接し方もそう。カリキュラムも決まっていますし、それに合わせたテキストもあります。
我流は禁物です。テキストに書かれていること以外は話さないようにしないといけません。テキストに書かれていないことを話すと、受講する人はテキストを見なくなります。自宅に帰り復習しようとしても話した内容が書かれていなければ戸惑います。
うちの教室にもいましたが、こういうインストラクターは正直困ります。教室には複数の先生がいますが、教える内容は一律でなければなりません。誰かが特化したり不足したりしてはいけません。
初心忘るべからず。出来なかったときの自分を忘れない
初心忘るべからず、ではありませんが、あなたも最初からパソコン操作に長けていたわけじゃありませんよね。努力してその知識や経験を得た。そして今のあなたがいる。
そのことを忘れてしまうことってよくあるんです。マニュアル化された環境にいると慣れが生じます。慣れると心のどこかで「こんなこと簡単」という気持ちが沸々してくることがあるのです。
そうすると、目の前でパソコン操作を習っている人たちに対して横柄な気持ちになってしまうことがあります。うちの教室にもいたんですよ、「何回言ったら覚えられるんですか」って言ってしまった人が。
あなたもそうだったんですよ、何回もやって覚えられたことがあったはず。それを忘れちゃいけない、慣れれば慣れただけこういうことがあったという事実を無理やりにでも思い出さなきゃいけない。忘れちゃいけないんです、いくら操作を覚えたとしても。
学び続けること。パソコン操作以外も学ぶ。学ぶ場はそこらじゅうにある
学びの場に身を置くのであれば、たとえ教える立場であっても常に学び続けなくてはいけないとわたしは思います。それはパソコン操作に限らず、あらゆることに対して、です。
習い事をしなさいと言うのではなく、人に習う、人に教えてもらう環境を常に持っておく、ということを続けてほしい。そして、教えてくれる人に対して敬意を持つ。教えてもらった事もそうですが、その人がどうあなたに教えてくれたのか、その流れは自分の「教える」に役に立つんです。声のトーンとか間とか、準備とか。声かけのタイミングとか。
授業参観で先生の話し方、ずっとチェックしてました(笑)きっと先生にとって嫌な父兄だったと思います。ものすごい難しい顔して授業を見てましたから。
人の話を聞く。だけじゃなく聞き取る。聞き出す力を持つ
それから、たくさんの人に一斉に操作を教えるにしても、マンツーマンで対応するにしても同じように必要な力があるとわたしは思います。
それは人の話を聞き取る力です。パソコンインストラクターといえば人前で話すのが仕事なのでお話が上手じゃないと仕事ができないと思われがちですが、わたしは違うと思っています。
相手が求めているものを聞き取る、聞くだけじゃなくて聞き取る力。
「先生!」と呼ばれるときには何かしらが起きた時なのですが、現象を解決してくれればいいと思っている人は理由を説明されることは求めていません。反対に、理由を知りたいと思っている人は解決は求めていません。
うちの教室には、マウスを奪って(受講者からはそう見えた)勝手に操作された!と授業中に大声を出されたインストラクターがいました。
これは明らかに聞き取り不足。この人は後者だったんです、なぜこうなったのかを知りたかった。なのに、現象を「勝手に」解決していった、と言われてしまった。
特に画面が違う、不安ですよね。もしかしたら「自分は悪くない」という気持ちがあるかもしれないし、逆に「自分のせいで授業が止まっている」と申し訳なく思う気持ちを持つかもしれない。
相手がどうすれば落ち着いた状態になれるのか、瞬時にそれを感じ取ることが必要。それには聞くだけじゃなく聞き取る。少ない質問、的を得た質問で相手の要望を聞き取る。そういう力は必要だと思います。
時間には限りがある。時間を意識して動く力を身につける
あとは時間を意識する力。時間は有限です。そしてその場をコントロールできる立場でもあるのがインストラクターです。先を読んで、何を話し何を話さないのか。テキストをただつらつらとこなすのではなく、時間配分。タイムマネジメントっていうやつです。
時間は有限。価値のあるものです。大事に使えるようにペース配分、時間配分ができるように、普段の生活の中でも時計を意識するようにしてみてください。
それと今ではスマホで時間を確認する人が多いですが、時間を意識するなら腕時計をする。それもアナログ時計がお勧めです。
現役のパソコンインストラクターがパソコンインストラクターになりたい人にお話しておきたいことのまとめ。
これらのスキルが必要じゃないかなと、わたしがインストラクターとしてお仕事をお願いするならという視点で書いてみました。
偉そうに書いてしまいましたが、以前と比べ操作技術があればパソコンインストラクターとして活動できるとはいえない時代になったなと、現場にいる身として思います。
そして、スキルを提供するのではなく、提案する。それは指導する前から指導した後まで、活かすというところまでを想定して授業を提案する。操作技術だけではなく、技術をうまく組み合わせて指導する力が必要になってきているように思います。
インストラクターとして活動したいという人がもしこのページに立ち寄ってくれているとしたら、「あなたができる、提案したい活用イメージ」を持って、あなたにしかできないインストラクションを…。そうお伝えして終わりたいと思います。