高齢者を対象としたパソコン教室をやっていると聞いて、高齢者を対象としたスマホの教室をやってもらえないかとご依頼いただくことがあります。
今から数十年前、行政が主催する「パソコン教室」が各所で開かれていました。これは国が行っていた「e-JAPAN」という取り組みの一環でした。公民館単位で開催されたパソコン教室には多くの人がパソコンを習いにやってきました。
その頃はまだ、家庭にパソコンがそれほど普及しておらず、習ったはいいが、実際に操作する環境にある人は少なかったように思います。
総務省が発表している令和3年情報通信白書には
デジタル活用には、インターネット等に接続するための端末が必要である。総務省が毎年実施している通信利用動向調査によると、情報通信機器の世帯保有率については、携帯電話やスマートフォンなどのモバイル端末では、9割を超えている。その中でも、スマートフォンの普及が進んでおり、8割以上の世帯で保有している
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd111100.html
スマホの世帯普及率が9割を超えたとありますね。パソコンに比べると普及率も普及スピードも違います。スマホは常に電源が入った状態で、常に通信環境が整っていますが、パソコンは起動しないと操作できませんし、電源を切った状態だとメールの着信には気づくことができません。
何か調べものをしようとしたらパソコンの電源を入れ、起動したら検索できる画面を開き、検索して…となりますが、スマホなら画面のロックを解除し、すぐに検索して調べることができます。
手軽さという点から見れば、スマホの普及・利用が進むのは分かりますね。
実際、パソコン教室でもスマホの使い方に関する質問はよく出てきます。パソコンよりも触れる機会が多いからでしょう。スマホの質問を受け付ける時間を設けると、普段より発問が多くなります。
パソコン教室に通う生徒さんは全員、スマホに機種変更されました。スマホに機種変更する前は不安や疑問がたくさんあったようですが、使っていくうちに「慣れて」こられ、自分がスマホでやりたいことが明確になって、漠然としていた質問がピンポイントな質問に変化してきています。
この経験から、スマホを購入する前と後で同じような講習を行うのではなく、ニーズに合わせて提供するものを変えたほうがいいと考えるようになりました。
スマホを購入する前の高齢者を対象とするなら「スマホと携帯電話の違い」をメインに一斉講習+質問時間を長めに
スマホを購入する前の高齢者は、携帯電話よりも高価で多機能なスマホを購入するか、購入しても使いこなすことができるかなど疑問や不安を感じています。
携帯電話を長く利用してきたため、携帯電話の操作が問題なくできているのにわざわざ新しい機器を使う必要があるのかと考えている人も多くいらっしゃいました。携帯電話とスマホの違いであったり、スマホだからできることがイメージしづらかったりするようです。
比較的、スマホが暮らしに馴染んでいる家庭の場合、そのハードルは低い印象があります。高齢者だけで暮らしている場合だとスマホに触れる機会はほとんどないため、興味を持つ機会も少ないように思います。
実際、実機に触れることができれば、抵抗感であったり不安感であったりを軽減することができる可能性がありますが、受講者の数だけ実機を準備するのは難しいです。
スマホを購入する前の高齢者を対象とした教室を開くなら、スマホと携帯電話との違い、料金(パケットの意味をお伝えする)などをお伝えしつつ、質問時間を多めに取り、発問を促す形がよいのではないでしょうか。
スマホを所有している高齢者を対象とした教室を開くなら、短時間で複数コンテンツを選ぶ+相談形式
スマホを所有している高齢者を対象とした教室を開くなら、短時間でコンテンツを複数設け、利用したいものを選択して受講できる形がよいのではないかと思います。
例えば、今でいえば、ワクチン接種の予約や通院時の待ち時間の負担軽減(受診が近づくとスマホに連絡が来る)、おくすり手帳がアプリで管理できる、ネットスーパー・宅配の利用、QRコード決済、地図アプリ、コミュニケーションツール(LINEやSNS)、情報収集(ニュースアプリや天気予報アプリ)など、「スマホを使ってこれができるようになろう」というコンテンツを作り、興味があったりできるようになりたいと思ったりするものに参加してもらう、という形がよいのではないかと思います。
個人的に主催したLINEに絞った教室は参加希望が多く、発問もあって受講者どうしがコミュニケーションをとることができたためか、大いに盛り上がり、これをきっかけに教え合ったりする関係性が生まれました。
おそらく、同じ釜の飯を食ったではないですが、同じタイミングで同じ講習を受講した「仲間」という感覚が芽生えたのではないでしょうか。活発なやり取りが今でも続いているようです。
これからは多様化するサービスや機器を「選ぶ」時代
よく「便利だから使いなさいよ」と友人から言われたんだけど、と質問されることがあるのですが、この「便利だから」は人によって違うということを忘れてはいけません。
今の時代、どんどんサービスが生まれ、機器も使いやすく進化していきます。そんな中で必要になるのは「知る力」と「選ぶ力」だとわたしは考えています。
今までたくさんの方の前に立ち、サービスや機器についてお話してきましたが、それを「知ろうとする」姿勢、「知った上で必要か不要かを判断する力」がある人は、自分なりの使い方をマスターし、うまく活用されているように思います。
曖昧な情報を耳にしたり目にしたりした状態で「不要だ」と決めたりせず、大まかでもいいので正しい情報を得たうえで、自分の暮らしがどのように変わるか想像し、必要か不要かを判断することがこれからの時代、必要な力なんじゃないかと思うのです。
「これしかなかった」時代から「あれもこれもある」時代になった。自分にとっては必要でも自分以外の人には不要なものがある、そしてその逆もある。それを受け入れる寛容さが必要な時代になったともいえるのではないでしょうか。
スマホについて教室を開くなら、購入前の人・講習後の人と分けて実施したほうがいいです。以前、購入前の人も購入後の人も同じように受け入れる教室の講師をさせていただいたのですが、購入前と後では知りたいことが違うんですよね。その教室終了後のアンケートでもそれははっきりと表れました。
スマホ教室をやろうとするなら、購入前の人向け、購入後の人向けと間口を分けて実施したほうが満足度と次へ進みたいという要望に進むんじゃないかと思います。